本かつお
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●なぜ気になったか
道徳とは「人々が善悪をわきまえて正しい行為をなすために、守り従わねばならない規範の総体」。本書を読むことで、「善悪のわきまえ」「正しい行為」へのモヤモヤ感が払拭されるのか確認してみたい
●読了感想
「なぜ人を殺してはいけないの?」と問われたら、モヤモヤ感を含んだ答えしかできなかったが、読んで一歩進んだ答えができるようになれた気がする。今後道徳的判断が問われる状況では、読んで感じたことを念頭に考えてみよう
アマゾンレビュー
●心に響いたフレーズ
- (人を殺してはいけないと決めたのは)、一つは、人間が集まってできる社会が決めた、(中略)、もう一つは、一人ひとりの人間の心が決めた
- 道徳の主な考え方(中略)、一つ目は「人間には理想の道徳がある」。二つ目は「道徳は個人個人が決めるもの」。(中略)、2つの考え方は、どちらも不完全
- 「人間には理想の道徳がある」という考え方は、同じ考え方を持つ者の間では安定した社会を作ることができますが、異なる考え方を持つ社会との関係は、柔軟性が低く、ときには破壊的になる
- 「人を殺してはいけない」という決まりの中の「人」は、人間一般を指しているのではなく、実際は「仲間の人間」だけを指している
- 道徳の決まりは、本来は限られた仲間内での掟。(中略)「仲間を殺せば悪人で、敵を殺せば英雄」
- (罪を犯した者に)、反省がなければ、私たちを仲間と思っていないということ、(中略)、反省があれば、私たちを仲間と思う気持ちがまだある
- 「親しみ」を感じることが、仲間であるという気持ちを支える重要な要素
- 悪名高い「一滴ルール」(中略)、一滴でもいわゆる「黒人」の血の混じった人間はどんなに比率が低くても、また、どんなに外見がいわゆる「白人」と同じでも、「黒人」
- 「仲間らしくしなさい」という掟。これこそが、道徳の本当の姿の表現
- 「仲間らしくしなさい」という掟は、二つの要素から成り立っています。第一の要素は、「仲間に危害を加えない」。(中略)、第二の要素は、「仲間と同じように考え、行動する」
- 人間の道徳には、もともと、人間に共通で変化しない側面と、仲間の範囲とともに変化する側面が同居している
- 人間と他の動物との決定的違い→これまで出会ったことも、これから出会うこともない赤の他人と仲間になって、社会を作ることができる
- 仲間に対する親しみと、仲間でないものに対する恐怖と憎しみは、同じものの二つの顔
- 多くの人たちは、「仲間と同じように考え、行動する」という仲間とともに変化する決まりを、絶対に変わることのない決まりと勘違いして、(中略)、無理矢理に適用しようとします
- 自分の社会とは異なる考え方や行動の仕方に出会ったときに、異常と感じ、軽蔑や怒りや憎しみなどの否定的な気持ちを持つようになる。(中略)、式で表すと「異質イコール悪、同質イコール善」。別の難しい言葉で表すと「自民族中心主義」
- 私たちは、慣れている方を、つい「当たり前」「正常だ」「いい」と思ってしまうのです。そして、慣れていない方を、「おかしい」「変だ」「悪い」と思ってしまうのです
- ここで注意したいのは、殺人の「人」の意味です。普段私たちは気づかずに使っていますが、「人」は実は「仲間の人」を指すのが普通です。そのことを吟味せず、「人」という言ことばを単純に「生物学的人間一般」と置き換えてはいけない
- 国際紛争の当事者同士は普通、異なる宗教・国家・民族に属していますので、お互いを仲間とは認めていないことです。したがって、通常の道徳は適用されませんので、エスカレートすると最終的には殺し合いである戦争にまで発展します
- コミュニケーションが閉ざされれば、慣れと親しみをおぼえる機会がなくなり、仲間意識が急速に衰え、異質なものに対する敵意が増大する機会が増える
●目次
- はじめに
- 第一章 「問題提起]道徳の現状を分析する
- やって善いことと悪いこと
- 誰が決めたのか
- なぜ決めたのか
- 戦争では人を殺してもいいのか
- 死刑では人を殺してもいいのか
- 子どもに「人を殺してはいけない」と言いながら、大人は変ではないか
- 善悪の区別は、時と場合によって変わるのか
- 全人間に共通の理想の道徳はないのか
- 第二章 [先行研究]過去の道徳思想を解析する
- 先人たちの道徳思想
- 「人間には理想の道徳がある」とする考え方
- 「道徳は個人個人が決めるもの」とする考え方〈前期〉
- 韓非子/マキアヴェッリ/プロタゴラス/ゴルギアス/エピクロス/エピクテートス/老子/荘子
- 「道徳は個人個人が決めるもの」とする考え方〈後期〉
- デカルト/カント/ニーチェ/キルケゴール/サルトル/ロールズ
- 「当たり前」のことは本当に当たり前か
- 「理想の道徳」の限界
- 「個人を中心とする考え」の限界
- これまでの考え方に足りないもの
- 第三章 「モデル構築]道徳の基本原理をモデル化する
- 誰を殺してはいけないのか
- 誰のための決まりか
- 仲間の範囲は変わる
- 「非人間」は人間か
- 仲間と罪悪感
- 仲間のバロメーター
- 免疫系の自己と非自己
- 仲間を作りだす「親しみの力」
- 出会いは親しみのもと
- 日常への影響
- バーチャルな出会い
- 宗教での出会い
- 国家や民族での出会い
- 愛国心や民族のアイデンティティー
- 混血児にとっての現実
- 変化する仲間
- 共通の掟と個別の掟
- 道徳の本音
- 第四章 「応用展開1]道徳は動物にもあるのか
- 道徳は人間だけのものか
- アリやハチの社会
- チンパンジーやゴリラの社会
- 人間社会の特徴
- 人間と他の動物はどこが違うのか
- 教え・儀式・文化
- 人間のことばの特徴
- ミツバチのダンス
- ことばは概念をつくる
- 第五章 [応用展開2]道徳とことばの関係性
- ことばのあいまいさ
- 「私」のあいまいさ
- 死・殺人・人のあいまいさ
- 音のあいまいさ
- 概念と音を結びつける
- ことばは社会性そのもの
- ことばは道徳にどう影響するのか
- 赤の他人のために自分を犠牲にできるのは人間だけ
- ことばに基づく仲間らしさの評価システム
- 他の動物の仲間らしさの評価システム
- ことばに基づくバーチャルな出会いの役割
- 第六章 「シミュレーションと予測]私たちはどう生きるべきか
- 簡単なことばで、わかりやすく説明することの意義
- 道徳が抱える問題点
- 仲間は「両刃の剣」
- 異質なものに対する憎しみ
- 身近な自民族中心主義
- いじめは小さな自民族中心主義
- いじめをなくす方法
- なぜ疎外感がはびこるのか
- 疎外感の矛盾
- 疎外感に打ち勝つ
- 死刑は悪か
- 国際紛争への対処法
- 未来にむけて私たちはどう生きるべきか
- おわりに
プロフィール
「観る読む歩く、釣る食べる、求められれば写真撮る」そんなマイペースな人生を淡々と・・・。